ラスト、コーション

ちょっとキモいタイミングのエントリになっちゃったのでおこうかとも思ったが、いいや、めんどくさいし(と言い訳しておいて。。。)

主人公チアチーの、イーを好きになる前の感情、考え、スパイになる動機がいまいちよくわからない。その結果作品の出来として損してる気がするなぁ。

女スパイであるチアチーが疑り深いターゲットのイーに取り入るには自ら本気で相手に飛び込むしかなく、激しいセックスとかもあって、結果として愛情を抱いてしまう、っていうのはまぁわかる話だ(ってこの解釈が外してたら以降の感想は全く無意味ですが)。でも、この展開は愛が芽生える前の感情との落差が激しいほどドラマティックなわけで、その感情、考えがもっとはっきり分かるような演出でも良かったんじゃないか。もちろん場面場面でそうと思わせるいろいろ演出はあるんだけど。他の人には十分なのかな。俺が下世話すぎ?もっと深遠な愛の真理が描かれているんだろうか。

例えセックスサイコーって話だったり、セックスにおける男女の駆け引きみたいな話だったりしても、交わされるそれぞれの視線の背後にどういう感情、思惑があるかがハッキリしている方が、より深みが出るんじゃないのかな。

あと、いずれにしてもセックスシーンはもっと嫌になるほど回数があった方が良かったです(その辺、期待が大きすぎたのかもしれないがw)

以下、いくつか彼女の感情、考え、動機に関連する部分を振り返っておく。

まず、公式ページで監督のアン・リーは映画のテーマとして演技の恍惚をあげている。例えば、彼女は偶然参加した劇団で演技に目覚め、演じることの快楽のため、危険をおして女スパイを演じているという解釈。でも劇団の打ち上げのシーンではそれほど彼女が高揚しているように見えない(原作ではこの場面が、彼女の高揚は静まらなかった、と表現されているらしい)。前半の香港で、彼女が演技を終えアジトに帰ってくるときは毎回憔悴しきって帰ってくる(演技に恍惚していれば、少しの間テンションが高ぶったりするのでは?)。彼女が映画好きで、何度かスクリーンに映るブロンドの美しい女優に憧れの眼差しをおくる場面は演技への想いを暗示させるが、間接的かな。女スパイとしてふるまう中で急に役者として表情が一変するとか、演技に酔ってより危険な行為につい踏み出してしまうとか、そういう分かりやすいシーンはない。

劇団参加へのきっかけとなったクァンへの恋心はどうか。上劇直前や、前述の打ち上げシーンで互いに惹かれあっているのは分かる。ただ、その強さを表現するためには、チアチーの処女喪失場面はもっと演出しようがあるのではないか。また上海で再開し、再度スパイ活動に身を投じる件も、クァンへの恋心からと解釈できる分かりやすい演出はなかった気がする(他の方も指摘しているが、この上海でスパイを再開する動機は全体を通して一番よくわからない部分だ)。

父親が住む英国へ移住するため協力したというのも考えられる。再度スパイ活動を始める際に、活動が成功した暁には英国に移住させてくれるよう国民党の人間にお願いしているからだ。そして、彼女が託した、おそらく移住について書かれた父親への手紙が焼かれるシーンも彼女にとって移住が重要であることを暗示するように見える。また彼女は居候している上海の叔母の家で心から受け入れられているわけではない。。。あれ?もしかしてこれか?

もちろん抗日は時代の前提としてはあるにせよ、特別な演出はない。

あと彼女がスパイになった動機ではないが、イーが彼女をどこまで疑ってるのかもよくわからなかったな。これも仕事の話を避けてるなっていうセリフとか、彼女が書斎に入った時のやり取りとか思わせぶりな演出はあったんだけど。なんかもっと分かりやすく最初は疑ってたんだけど、徐々に溺れていくっていう演出で良かったんじゃないのかな。あぁ、最初のベルトで縛ったりするセックスは疑ってたってことなのか?

みたいな感じで謎がいっぱいです。うーん、愛って奥深い。