「CDはどこへ行く」〜MUSIC MAGAZINE 2008/7

久しぶりにMUSIC MAGAZINEを買った理由が「CDはどこへ行く」という特集なのだから皮肉なものだ。


音楽ソフトはデータ配信に取って代わられるのか、そしてレコード会社、音楽ビジネスは生き残れるのか、といったテーマについて、音楽業界の概況を数字で整理すると共に、ミュージシャン(小西さんやクラムボンのミトなど)、レコード会社トップ(ソニー、ユニバーサル)、小売(レコファン、エル・スールレコードなど)、評論家といった様々な立場からの証言をまとめたもの。

一読の価値はあります。この辺に興味がある人にはお薦め。

個人的な感想をダラダラと書いておく。

CDの売上は落ちていく。配信だけではそれを補えないだろう。録音した曲の複製を売るという音楽ビジネスは縮小一方だと思う。特にレコード会社、流通。ミュージシャンはオンラインでの直販でペイするのかもしれないが、よく分からん。

にしてはレコード会社トップの現状認識、将来ビジョン、打ち手のアイデアが酷過ぎる!納得感があるレコード会社の付加価値を表現、アピールできていない。あえて戦略を隠してる、馬鹿を装ってるんじゃないかと思えるほど。

今後のレコード会社の付加価値は、資本、投資力に裏打ちされた編集、総合演出能力になるのだろうが、現実的にそんな能力を発揮できるのだろうか?サラリーマンでできるのか?この辺は最近のマンガ業界の騒動、それに対する竹熊さんの意見にも通ずる。個人的には悲観的。少なくとも旧態依然とした、既得権益にすがりつこうとする連中には無理なんじゃないかと思う。

一方社会に対する間接的な付加価値としては、事業体としてのサスティナビリティ、そして人材供給源の側面があろう。現在、良質な作り手としてインディーズが大手の代替を果たしている部分はあると思うが、インディーズで働く人間は大手からドロップアウトしたりした人だったりしないのか?大手がなくなったら、教育された若い人材の枯渇でインディーズも成立しないという事態にはならないのか?

アメリカ的なメガメディアの可能性は?テレビ、ラジオなどのメディアも抑え垂直統合することで、マーケティングの効率化を図り、企業として生き残る方向性は日本ではないのだろうか?それとも現時点で、資本関係はなくとも実体としては同じ状況なのか?

この手の話では、音楽ソフトの売り上げが98年で6000億ぐらいが07年にはビデオを合わせて4000億を切ったみたいな数字が必ず出てくるんだけど、この数字だと議論には大雑把過ぎるのではないか。例えば自分にとってみれば、チャート重視のJ-POPがどうなろうが直接的にはどうでもよく、良質な音楽が残ればそれでよいわけで(まぁ、そこの利益が売れない音楽に還元されている部分もあるのかもしれないが)、内訳を明らかにして数字の落ち込みを検証しないと効果的な打ち手が見えてこない。音楽ジャンル別とか、ソフト別やオリコン順位別のパレートぐらいは欲しいなぁ。概算はオリコンデータから出せるんだろうから、誰かやってくれないかなぁw

同様にミュージシャンが制作活動を維持できる売上がどの程度なのかも数字が欲しい。印税率を変えた場合、パッケージから配信に移った場合などのシュミレーションが欲しい。意外とレコード会社のマーケティング、販促がなくってもペイするんじゃないの?作詞、作曲から演奏、マスタリングまでミュージシャン自身がこなす場合(例えば中田ヤスタカとかw)。1曲200円でダウンロード一万回。経費を30%としたら1曲あたり140万円。年間10曲出せれば普通の暮らしはできそう。曲が良ければ、1曲1万ダウンロードぐらい本人の活動、口コミで何とかなるんじゃないかなぁ。

本誌でも触れられている通り、ライブの価値はなくならない。ただここもフェスがある程度定着した今、新たなビジネスとしてどこまで可能性があるかは不明。ある意味では音楽が産業化される前の時代、芸をしてお金をもらうという、身の丈に合ったビジネス(というか仕事、職種)になっていくのかも。

CDの代わりに、物としての価値によりウェイトを置いたパッケージの可能性(アナログもその一つ)はあるのか?物凄くニッチなニーズな気がするんだけど。

小西さんの指摘する、アルバムで楽しむ文化の行く末という視点は興味深い。確かにアルバム単位で聞く文化ってビートルズのサージェントペパーズぐらいからなんだろう。要は高々50年に満たない。その前はシングルを楽しむ文化だったわけだ。確かに個人的にもiTunesメインで使うようになってプレイリストで聞くことが増え、アルバム単位で聞くことが減っている。アルバムを楽しむこと、曲の並びや1時間程度全体の流れ、構成で1つの曲を単体で聞くだけでは味わえない感動があることはもちろんなのだが。なんだろう、時間感覚の変化なのかもな。手放しで肯定できない気はするが、しっかり音楽に向き合うっていう行為に1時間は長すぎると感じている。そういう聞き方のニーズは、最近はもっぱらライブで満たしている感じ。

ライター、評論家の意見は偏りすぎだろう。CD、アナログのパッケージ文化への幻想にしか聞こえない。これがリスナー全体のどれだけの割合の声なのか。

本気で考えるならば若年層の実態を調べてほしかったな。例えば、自分を振り返ってみても、新しいリスナーにとっては良質な情報源が重要だと思うんだけど、若い時に比べ少なくなっている気がする。テレビであればビートUK、モグラネグラ、真夜中の王国などに随分お世話になった。今新しい音楽への入り口は大型レコード店や野外フェスとかだろうか。野外フェスの年代別の入場者数と推移とかわかると面白いよなぁ。フジロックとか大きいフェスは懐メロがヘッドライナーだったりして、てことはある程度古いリスナーが中心で、思ったほど若年層にとっての新しい音楽の入り口として寄与していないのではないか。それじゃフェスもジリ貧なのでは。