まずは問題提起から〜シッコ SiCKO

DVDで。興味深いが、正直物足りなかった。医療問題、財政問題に普段あまり関心がない人には、考えるきっかけとしていいかも。

シッコ [DVD]

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理由はいくつかある。

まず、所詮対岸の火事ということ(本当は違うんだけど)。医療保険の仕組みが米国と日本では異なるため、どうしても他人事に思えてしまう。

次に、マイケル・ムーアの手法自体に慣れてしまったこと。当初は新鮮だったが、やはり飽きる。ラストのキューバのエピソードも、「ボーリング・フォー・コロンバイン」のKマートのそれと同じ手法で、その作為が気になってしまう。

最後に、自分の主張に都合の良い部分しか見せないことへの違和感。米国の「ダメ」な制度に対し、カナダ、イギリス、フランス、更にはキューバの制度までが素晴らしい制度として持ち上げられる。しかし、同じく国民皆保険の日本を見てもわかるとおり、これらの国についても財源問題という大きな問題を抱えているのだ。映画の中で、そういったことは取り上げられない。米国の現状にしたって、根本的な原因は(けして保険会社の利益至上主義だけでなく)医療費の高騰を抑える方策の結果であるのだ。

この点について、マイケル・ムーアはある程度意図的だろう。好意的に見れば、まずは問題提起が重要であり、そのためには問題の単純化、感情に訴える手法が有効であると判断したのでは、と考えられる。もしもより厳密に扱うには、どうしても仕組みの問題、そしてお金の流れとその定量的、かつトレードオフを意識した議論が必要になるだろうからだ。この映画の中に、それを合わせて詰め込むのは確かに複雑に過ぎる。

以上の理由から、期待したほど強い印象はない。ただ医療問題って何?とか、保険証を持って病院へ行けば数千円で診療を受けられることに何の疑問も抱いていない人(とかいるのか?)、には考えるきっかけとしてお薦め。別に医者は善意だけで治療しているわけではないし、人件費、治療に使う資材や設備、そして薬は、誰かが無償で提供しているわけでもないのだ。


参考として、

マイケル・ムーアSiCKO』の僕なりの見方――社会保障問題とは結局のところ財源調達問題に尽きる(PDF)
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/korunakare104.pdf

慶應義塾大学 商学部の権丈教授のテキスト。ムーアのカンヌでのインタビュー抜粋と、それを踏まえた上記問題の単純化へのコメント。教授は肯定。なぜなら医療の「平等消費」を是とする立場からは、アメリカの問題は方向性のレベルで間違っているから、とのこと。また、劇中で出てくるヒラリーの医療改革がなぜ失敗したか(ムーアは劇中で明確に答えていない)についての論文も紹介している。