ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

是非を問われるならば、間違いなく是。傑作。ただ思わせぶり、解決されないエピソードたくさん。なので一度見ただけではおいそれとモノを言えない映画であるが、「でも、やるんだよ!」ってことで。

負けず嫌いな一人の「人間」の人生を描いた物語。ただ、その是非を単純には評価できない、って所が肝かなと。連想したのは「血と骨」。

まず(得体が知れない、感情がないという意味での)「怪物」ではない。本人が自覚的かどうかはともかく、いろいろな想い(そしてそれは矛盾もしていよう)を抱え、苦しみながら生きていく。極めて人間的。

さて、これは悲劇なのだろうか?資本主義批判か?そんな単純か?僕には、そういう安易な評価を徹底して拒否しているように見えた。

この映画では、まったくもって幸せや肯定すべき人生を象徴するシーンが出てこない*1。例えば金より愛が大事って言ってるか?否。愛情が大事っていうシーンは一つも出てこない。普通の家庭が幸せです、っていうシーンもない。数少ない家族のシーンである息子の結婚式も、決して幸せの象徴として描かれてはいない。もちろん宗教は気持ちよいほど痛快にぶった切られている。

そんな中、最後の最後で主人公が自身の人生を評価する。"I'm finished."

僕が感じたのは、「確かに競争だけの人生は幸せじゃないかもね。でも、じゃあ何が幸せなんだっけ?」っていう問いかけだった。

映像、音楽ともに映画館での鑑賞に向いた作品。にもかかわらず都内上映は3館。しかも決して十分なスペックと言えず。そりゃ、日本の映画状況に愚痴りたくもなります。

気になった他の人のレビューを挙げておく。

やがて血が水のごとく流される - Lucifer Rising
http://d.hatena.ne.jp/satan666/20080504/p1

人間関係においてはどうしようもなく不器用で、周囲の人間を貶め傷つけてゆく。というか、プレインビューは「人をやり込めて、罵倒して、傷つける」以外のコミュニケーションの方法を知らないのである。

→そのとおり!

2008-05-11 - 続・奥田K子の「麦っ子日記」
http://d.hatena.ne.jp/movableinferno/20080511

→『近代的自我でない。野生動物のありように近い』ってのも、上記と真逆なんですが分からなくないです

仏に遭うたら仏を殺せ「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」 - 深町秋生の新人日記
http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20080509

あと、監督のポール・トーマス・アンダーソンと主演のダニエル・デイ=ルイスのインタビュー(テキスト)

ポール・トーマス・アンダーソン監督&ダニエル・デイ=ルイスに聞く - eiga.com
http://eiga.com/movie/53169/special
http://eiga.com/movie/53169/special/2

こちらは動画

Variety Screening Series - Variety Japan
http://www.varietyjapan.com/video/u3eqp30000032lq0.html
http://www.varietyjapan.com/video/u3eqp30000032lwg.html
http://www.varietyjapan.com/video/u3eqp30000032m2w.html
http://www.varietyjapan.com/video/u3eqp30000032mhm.html

*1:あえて言えば、預けられていた息子が帰ってきて父親である主人公を殴るシーンが一番幸せなシーンに見えた